大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和40年(行ウ)26号 判決

神戸市灘区都通一丁目二番地の五

原告

野田商事有限会社

右代表者清算人

野田喜代治

同市同区岩屋中町二丁目二七番地

原告

野田商事株式会社

右代表者代表取締役

野田喜代治

原告両名訴訟代理人弁護士

藤原忠

同市同区泉通二丁目一番地

被告

灘税務署長

山中清

右指定代理人検事

竹原俊一

法務事務官 中島揚一

同 山本雅之

大蔵事務官 吉田秀夫

同 河野文雄

同 中西時雄

右当事者間の課税処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告ら)

「被告が原告野田商事有限会社(以下、原告有限会社という)に対し昭和三九年四月九日付でなした昭和三五年一一月一日から昭和三六年一〇月三一日までの事業年度(以下、第一期という)の法人税について所得金額を八四三、一二六円、法人税額を二七八、二二〇円とした更正および過少申告加算税額を七、六〇〇円とした加算税の賦課決定(以下、第一の再更正等という)ならびに昭和三六年一一月一日から昭和三七年一〇月三一日までの事業年度(以下、第二期という)の法人税について所得金額を四、二九一、九〇八円、法人税額を一、六五五、九七〇円とした更正および過少申告加算税額を七四、一五〇円、重加算税額を五一、六〇〇円とした加算税の賦課決定(以下、第二の更正等という)を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決

(被告)

主文と同旨の判決

第二当事者の主張

(請求の原因)

一(一)  原告有限会社は第一期の法人税について所定の期限内に所得金額を五〇、二〇〇円、税額を一六、五六〇円として確定申告をしたところ、被告は昭和三七年六月二九日付で所得金額を四五二、一一三円、税額を一四九、一九〇円とした更正および重加算税額を五四、〇〇〇円とした加算税の賦課決定(以下、第一の更正等という)をし、更に昭和三九年四月九日付で第一の再更正等をした。

(二)  原告有限会社は第二期の法人税について所定の期限内に所得金額を欠損四四四、八六九円、税額を〇円として確定申告をしたところ、被告は昭和三九年四月九日付で第二の更正等をした。

二、原告株式会社は第三期の法人税について所定の期限内に所得金額を五二、〇八五円、税額を一七、一六〇円として確定申告をしたところ、被告は昭和三九年四月九日付で所得金額を九、〇九四、五七一円、法人税額を三、七三〇、九〇〇円とした更正および過少申告加算税額を一八五、六五〇円とした加算税の賦課決定(以下、取消前第三の更正等という)をした。

三、原告らは第一の再更正等、第二の更正等および取消前第三の更正等を不服として、昭和三九年五月二九日大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、昭和四〇年四月一五日付で「原告有限会社の請求をいずれも棄却し、原告株式会社の請求については原処分の一部を取消し、取消前第三の更正等を第三の更正等とする。」旨の裁決を受けた。

四、しかしながら、第一の再更正等および第二第三の各更正等は違法であるから、原告らは被告に対しその取消を求める。

(請求の原因に対する答弁)

請求の原因一ないし三の事実は認める。

同四の主張は争う。

(被告の主張)

一、第一期の法人税についてなされた第一の更正等は原告有限会社より何らの不服申立もないまま確定したが、その後被告が調査・検討したところ、次のとおり更に金三九一、〇一三円を益金に加算すべきことが判明したので、第一の再更正等をした。

(一)(1) 原告有限会社は昭和三六年五月二六日神戸国際港都建設事業灘地区復興土地区画整理事業施行者・神戸市長(以下、神戸市長という)に対し神戸市港区都通一丁目二番地の五の土地一四〇坪(以下、第一の土地という)上の原告有限会社所有の建物(木造塩焼瓦葺二階建一棟床面積九七・五二坪)および付属工作物一切(第二西灘温泉、以下、第一の建物等という)の移転又は除却の承諾をして、第一の建物等の移転又は除却による損失補償金四、六〇〇、〇〇〇円(以下、本件補償金という)の債権を確定的に取得し、本件補償金について第一期に収入した二、二〇〇、〇〇〇円を保証金勘定(仮勘定)に計上したが、残り二、四〇〇、〇〇〇円については何らの経理もしなかつた。

(2) 本件補償金の内訳は後記のとおりであつて、本来、租税特別措置法という)第六四条(収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例)の規定の適用を受ける対価補償には該当しないものであるから、その収入すべきことが確定した日、すなわち、移転又は除却の承諾の日を含む事業年度の益金に算入すべきものである。もつとも、損失補償金であつても、移転料・取壊し費等については、これを支出する日(その支出する日が収用等のあつた日から一年後である場合には一年を経過した日の前日)まで、仮勘定として経理できるものとして取り扱われているので、本件補償金四、六〇〇、〇〇〇円のうち、営業補償金三八八、一九三円を除く移転補償金四、二一一、八〇七円については、これを仮勘定として経理することができる。したがつて、本件補償金のうち、仮勘定として経理できる四、二一一、八〇七円を除いた残余の営業補償金三八八、一九三円は益金に計上するのが相当である。

なお、措置法第六四条第二項の規定は昭和三七年法律第四六号付則第八項により昭和三七年四月一日以後に行われた資産の譲渡について適用されるものであるところ、第一の建物等について収用等による譲渡があつたものとみなされる時期は原告有限会社が第一の建物等の移転又は除却の承諾をした昭和三六年五月二六日であるから、本件補償金については、措置法第六四条第二項の規定の適用はない。

仮に本件補償金が措置法第六四条第二項の規定に該当するものとしても、原告有限会社の提出した確定申告書等に同条第一項の規定により損金に算入される金額の損金算入に関する申告の記載がなく、かつ、右確定申告書等にその損金に算入される金額の計算に関する明細書その他所定の書類の添付がなされていなかつたので、本件補償金については措置法第六四条第四項の規定により同条第一項の規定の適用を受けることができない。

本件補償金四、六〇〇、〇〇〇円の内訳

建物移転補償金 二、九六〇、九五二円

構築物移転補償金 九八三、三一〇円

動産移転料 一四、七五〇円

営業補償 三八八、一九三円

雑費 二三〇、二九五円

その他補償 二二、五〇〇円

合計 四、六〇〇、〇〇〇円

(二) 前事業年度に対する事業税のうち、第一期の損金に計上されていない金額(未納事業税額)は一三、七七〇円であるが、第一の更正等において、右金額が一六、五九〇円と過大に損金に算入されていたので、誤算額二、八二〇円を益金に加算した。

二、第二期の法人税について被告が調査・検討したところ、次の金額を加算又は減算すべきことが判明したので、第二の更正等をした。

(一) 加算金額 五、一三七、九八七円

(1) 減価償却否認 一四二、〇〇〇円

原告有限会社は神戸市灘区岩屋北町二丁目二七番地の土地九〇坪(以下、第二の土地という)の買入代金の一部として古谷大吉に支払つた金一、五〇〇、〇〇〇円を建物勘定に計上し、第二期において減価償却を行い減価償却費として一四二、〇〇〇円を損金に計上していたが、土地についての減価償却は認められないから、右減価償却費一四二、〇〇〇円を否認し、益金に加算した。

(2) 土地売却代金 四六五、〇〇〇円

原告有限会社は昭和三七年三月二〇日神戸市灘区灘南通四丁目二七番地の四の土地一一六・三四坪(以下、第三の土地という)のうち五・五四坪(同所同番の九、一〇)を四六五、〇〇〇円で奥田周吉に売却したが、右代金を益金に計上せず、代表者野田喜代治(以下、野田という)が取得していたので、益金に加算した。

(3) 建物移転補償金等 四、二一一、八〇七円

第一期において収入すべきことが確定した本件補償金四、六〇〇、〇〇〇円のうち、第一期の益金に加算した営業補償金三八八、一九三円以外の金額四、二一一、八〇七円は、その後交付の目的となつた経費支出の事実がないので第二期の益金に計上すべきものであるが、計上されていないので、これを加算した。

(4) 損金に計上した法人税等 三一九、一八〇円

原告有限会社の納付すべき法人税、県民税および市民税合計三一九、一八〇円は原告株式会社が立替納付していたが、原告有限会社はこれについて何らの経理もしていなかつたので、被告は原告有限会社が右法人税等を損金に計上し、かつ、同額を原告株式会社から借入したものとして計算した。

すなわち、右法人税等三一九、一八〇円は損金に算入されないので益金に加算し、同額を原告株式会社に対する計上もれ未払金として減算した。

(二) 減算金額 四〇一、二一〇円

(1) 事業税 五〇、〇九〇円

第一期分に対する事業税のうち、第二期の損金に計上されていない金額を減算した。

(2) 計上もれ未払金 三五一、一二〇円

原告株式会社が立替えて支払つた原告有限会社の経費三五一、一二〇円(前記(一)(4)の金額を含む)について何らの経理もしていなかつたので、これを未払金の計上もれとして減算した。

三(一)  第三期の法人税について被告が調査・検討したところ、次の金額を加算又は減算すべきことが判明したので、取消前第三の更正等をした。

(1) 加算金額 一一、三〇〇、〇〇〇円

原告株式会社は京神建設株式会社(以下、京神建設という)との請負契約に基づいて昭和三七年一二月に第二の土地上に建物(第一みるめ温泉、以下、岩屋浴場という)を新築・取得し、その代金として二、〇〇〇、〇〇〇円を支払うと同時に第一の土地を代物弁済に提供したものであるが、岩屋浴場の取得価額が一三、三〇〇、〇〇〇円であるのに、これを二、〇〇〇、〇〇〇円と計上していたので、その差額一一、三〇〇、〇〇〇円を益金に加算した。

なお、第一の土地は、登記簿上、野田の所有名義となつているが、野田は昭和三一年三月一三日これを原告有限会社に譲渡し、原告有限会社は昭和三七年七月一日これを更に原告株式会社に譲渡したものであつて、その真の所有者は原告株式会社である。

(2) 減算金額 二、二五七、五一四円

(イ) 土地勘定の減算 二二五、〇〇〇円

第一の土地(仮換地、西灘浜手工区二四〇ブロック七号地の一一〇八坪)は譲渡済みであるのに、土地勘定に計上していたので、右帳簿価額二二五、〇〇〇円を減算した。

(ロ) 計上もれ未払金 三〇〇、〇〇〇円

岩屋浴場の建築代金三〇〇、〇〇〇円が未払であるのに、損金(未払金)に計上していなかつたので、右三〇〇、〇〇〇円を減算した。

(ハ) 建物勘定の減算 一、七三二、五一四円

第一の建物等が除却・消滅しているのに、存在するかのように建物勘定に計上していたので、右帳簿価額一、七三二、五一四円を減算した。

(二)  大阪国税局長は原告株式会社より取消前第三の更正等について審査請求を受け、その後調査・検討したところ、次のとおり加算又は減算すべきものと認められたので、原処分の一部を取消し、取消前第三の更正等を第三の更正等とする旨の裁決をした。

(1) 加算金額 七、八五八、四七九円

原告株式会社が岩屋浴場の建築請負代金の一部として代物弁済に充てた第一の土地の代物弁済当時の価額は少なくとも八、〇〇〇、〇〇〇円を下るものではないことが認められたので、岩屋浴場の取得価額は右八、〇〇〇、〇〇〇円に現金で支払われた二、〇〇〇、〇〇〇円および未払代金三〇〇、〇〇〇円を加算した一〇、三〇〇、〇〇〇円が相当と認められた。

ところで、法人が固定資産の取得価額の全部又は一部を損金に算入したときは、その損金算入額相当の金額の償却をしたものとみなして、その資産のその事業年度分の償却範囲額(損金算入)、償却超過額(損金不算入)を計算することに取扱われている(法人税法施行細則第六条)ので、岩屋浴場の取得価額とすべき金額のうち、原告株式会社がその取得価額として計上した二、〇〇〇、〇〇〇円を超える金額八、三〇〇、〇〇〇円については償却をしたものとみなされ、結局、右八、三〇〇、〇〇〇円と原告株式会社が損金に計上した償却費五六、七九七円との合計額八、三五六、七九七円は原告株式会社のした償却額であるところ、法令の規定に基づいて算出した岩屋浴場の第三期の償却範囲額は五一四、九九九円であるから、右償却超過額七、八四一、七九八円を益金に加算した。

また、原告株式会社はその所有にかかる第三の土地上の建物(もと、西灘温泉、第二みるめ湯)について、その第三期の償却範囲額が八三、四〇三円であるのに、右建物の償却費として一〇〇、〇八四円を損金に計上していることが判明したので、右償却超過額一六、六八一円を益金に加算した。

(2) 減算金額 三、二八三、五一七円

(イ) 土地勘定の減算 二二五、〇〇〇円

原処分((一)(2)(イ))のとおり

(ロ) 計上もれ未払金 三〇〇、〇〇〇円

原処分((一)(2)(ロ))のとおり

(ハ) 建物勘定の減算 二、七五八、五一七円

原告株式会社は第三期において除却した第一の建物等について、これを建物勘定に計上したままであつたので、原処分ではその帳簿価額一、七三二、五一四円を減算したのであるが、審査請求の際、大阪国税局長が調査したところ、右帳簿価額は二、七五八、五一七円が正当であると認められたので、右金額に訂正した。

(被告の主張に対する原告らの答弁および反論)

一(一)  被告の主張一の冒頭の事実中、第一期の法人税についてなされた第一の更正等は原告有限会社より何らの不服申立もないまま確定したことは認める。

(二)  同一(一)(1)の事実中、原告有限会社が昭和三六年五月二六日神戸市長に対し原告有限会社の所有の第一の建物等の移転又は除却の承諾をしたこと、原告有限会社が本件補償金四、六〇〇、〇〇〇円のうち、第一期に収入した二、二〇〇、〇〇〇円を保証金勘定(仮勘定)に計上したが、残り二、四〇〇、〇〇〇円については何らの経理もしなかつたことは認める。

(三)  同一(一)(2)の事実および主張中、本件補償金の内訳が被告主張のとおりであることは認めるが、その余の主張は否認する。

第一の建物等について収用等による譲渡があつたものとみなされる時期は第一の建物等の移転又は除却が完了した昭和三八年三月三〇日であるから、本件補償金は措置法第六四条第二項第二号(同法施行令第三九条の二第七項第二号)の規定の適用により課税の対象とはならない。

仮に本件補償金が課税の対象になるとしても、原告有限会社は昭和三六年五月二六日神戸市長に対し建築物等の移転又は除却承諾書を提出したが、そのときの条件として補償金四、六〇〇、〇〇〇円の請求権は移転又は除却完了後に発生することが明記されていたから、本件補償金は第一の建物等の移転又は除却の完了を停止条件として債権が発生するものである。

また、仮に本件補償金が被告主張のように移転又は除却の承諾の日を含む事業年度の益金に算入すべきものとしても、その金額は当該年度に支払を受けた金二、二〇〇、〇〇〇円の限度に止まり、それ以上の金額には及ばない。

(四)  同一(二)の事実および主張は認める。

二(一)  被告の主張二(一)(1)の事実中、原告有限会社が第二の土地の買入代金の一部として古谷大吉に対し一、五〇〇、〇〇〇円を支払つたことは認めるが、右金額を建物勘定に計上し、それに対する減価償却費として一四二、〇〇〇円を損金に計上したことは争う。

(二)  同二(一)(2)の事実中、第三の土地のうち、五・五四坪が昭和三七年三月二〇日四六五、〇〇〇円で奥田周吉に売却され、右売却代金は原告有限会社が益金に計上せず、野田が取得していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

第三の土地は野田の所有に属するものである。

(三)  同二(一)(3)の主張は否認する。

本件補償金を益金に計上すべきでないことは、前述のとおり、措置法、同法施行令の規定によつて明らかである。

(四)  同二(一)(4)の事実及び主張は認める。

(五)  同二(二)(1)(2)の事実および主張は認める。

三(一)  被告の主張三(一)(1)の事実は否認する。

岩屋浴場は野田が京神建設から、野田の所有に属する第一の土地および原告株式会社が野田のために立替払いをした二、〇〇〇、〇〇〇円と交換することにより取得したものであるから原告株式会社の所有に属するものではなく、野田の所有に属するものであり、なお、その価額も被告主張のように高額ではない。

(二)  同三(一)(2)(イ)の事実中、第一の土地が帳簿価額二二五、〇〇〇円として原告株式会社の土地勘定に計上されていたことは否認する。

第一の土地は野田の所有に属していたものであるから、原告株式会社の土地勘定に計上されるはずはない。

(三)  同三(一)(2)(ロ)の主張は、三〇〇、〇〇〇円が加算金額一一、三〇〇、〇〇〇円のうちに含まれているとすれば当然である。

(四)  同三(一)(2)(ハ)の事実中、第一の建物等が帳簿価額一、七三二、五一四円として原告株式会社の建物勘定に計上されていたことは否認する。

第一の建物等は原告有限会社の所有に属していたので、原告有限会社の帳簿に計上されたことはあるが、原告株式会社の帳簿に計上されたことはない。

(五)  同三(二)(1)の事実中、岩屋浴場の取得価額が一〇、三〇〇、〇〇〇円であること、原告株式会社が岩屋浴場の取得価額として二、〇〇〇、〇〇〇円を計上したこと、原告株式会社が岩屋浴場の償却費五六、七九七円を損金に計上したことならびに原告株式会社が第三の土地上の建物の償却費として一〇〇、〇八四円を損金に計上していたことは否認する。

(六)  同三(二)(2)(ハ)の事実中、第一の建物等が昭和三七年五月頃除却されたが、建物勘定に計上されたままであつたこと(ただし、計上されていたのは原告有限会社の帳簿上である。)は認めるが、建物の帳簿価額が二、七五八、五一七円であることは争う。

第三証拠

(原告ら)

一、甲第一ないし第四号証、第五第六号証の各一、二、第七号証の一ないし七、第八ないし第一三号証、第一四ないし第一九号証の各一ないし四、第二〇号証の一ないし三。

二、証人前川晃資、同郷辰男、原告ら代表者(第一第二回)。

三、乙第一号証の一、二の成立は否認する、第一号証の三、第四第五第七第九第一二号証、第一九ないし第二一号証の成立は知らない、第三号証の三のうち、官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない、その余の乙号各証の成立は認める。

(被告)

一、乙第一号証の一ないし三、第二号証、第三号証の一ないし三、第四ないし第七号証、第八号証の一ないし三、第九ないし第一三号証、第一四号証の一、二、第一五ないし第一七号証、第一八号証の一、二、第一九ないし第二一号証、第二二号証の一ないし三。

二、証人増田和夫、同中西保、同岩上嘉明、同宮本益美。

三、甲第七号証の一ないし七、第一一第一二号証の成立は知らない、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

第一  原告有限会社が第一期の法人税について所定の期限内に所得金額を五〇、二〇〇円、税額を一六、五六〇円として確定申告をしたところ、被告が昭和三七年六月二九日付で第一の更正等をし、更に昭和三九年四月九日付で第一の再更正等をしたこと、原告有限会社が第二期の法人税について所定の期限内に所得金額を欠損四四四、八六九円、税額を〇円として確定申告をしたところ、被告が昭和三九年四月九日付で第二の更正等をしたこと、原告株式会社が第三期の法人税について所定の期限内に所得金額を五二、〇八五円、税額を一七、一六〇円として確定申告をしたところ、被告が昭和三九年四月九日付で取消前第三の更正等をしたことならびに原告らが第一の再更正等、第二の更正等および取消前第三の更正等を不服として、昭和三九年五月二九日大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、昭和四〇年四月一五日付で「原告有限会社の請求をいずれも棄却し、原告株式会社の請求については原処分の一部を取消し、取消前第三の更正等を第三の更正等とする。」旨の裁決を受けたことは当事者間に争いがない。

第二  そこで、第一の再更正等および第二第三の各更正等が違法であるかどうかの点について順次判断する。

一、第一の再更正等について

第一期の法人税についてなされた第一の更正等が原告有限会社より何らの不服申立もないまま確定したことは当事者間に争いがないので、被告主張の加算(益金)が相当であるかどうかの点について検討する。

(一)  原告有限会社が昭和三六年五月二六日神戸市長に対し原告有限会社所有の第一の建物等の移転又は除却の承諾をしたこと、本件補償金の内訳が被告主張のとおりであることならびに原告有限会社が本件補償金のうち、第一期に収入した二、二〇〇、〇〇〇円を保証金(仮勘定)に計上したが、残り二、四〇〇、〇〇〇円については何らの経理もしなかつたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三第四号証ならびに原告ら代表者の供述(第一回)によると、原告有限会社は昭和三六年五月二六日神戸市長に対し第一の建物等の移転又は除却について損失補償金は四、六〇〇、〇〇〇円とすること、損失補償金は移転又は除却完了後請求すること等の条件で承諾し、昭和三八年三月三〇日右移転を完了したが、本件補償金のうち、二、二〇〇、〇〇〇円は昭和三六年六月一四日、一、二〇〇、〇〇〇円は昭和三七年一一月一五日、一、二〇〇、〇〇〇円は昭和三八年五月九日にそれぞれ受領したことが認められる。

(二)  原告有限会社は本件補償金は措置法第六四条第二項第二号、同法施行令第三九条の二第七項第二号(昭和四一年政令第七七号による改正前)の規定の適用により課税の対象とはならない旨主張するので考えてみるに、右各規定は昭和三七年法律第四六号および同年政令第一〇二号によつて追加されたものであるが、右法律第四六号附則第八項によると、措置法第六四条第二項の規定は昭和三七年四月一日以後に、この規定に該当する資産の譲渡(措置法第三一条第三項若しくは第六四条第二項の規定により収用等による譲渡があつたものとされる行為その他これらの規定において譲渡に含まれるものとする行為を含む)が行われた資産に係る法人税について適用され、同日前に右譲渡が行なわれた資産に係る法人税については、なお従前の例によるものと定められていることが明らかであるところ、本件補償金は、後述のとおり、原告有限会社が神戸市長に対し第一の建物等の移転又は除却の承諾をした昭和三六年五月二六日に権利が確定した債権であつて、第一の建物等について収用等による譲渡があつたものとみなされる時期は右同日であると解するのが相当であるから、本件補償金については措置法第六四条第二項の規定の適用はないといわなければならない。

(三)  次に、原告有限会社は本件補償金は第一の建物等の移転又は除却の完了を停止条件として債権が発生するものである旨主張するので考えてみるに、証人増田和夫の証言によると、移転又は除却に伴う損失補償金は移転又は除却の承諾後神戸市長より分割して支払われる取扱いであつたつたことが認められる(原告ら代表者の供述((第一回))のうち、右認定に副わない部分は採用することができない。)とともに、本件補償金は、前述のとおり、第一の建物等の移転完了前、既に内金三、四〇〇、〇〇〇円が支払われたものであるから、本件補償金は、原告有限会社主張の張のような停止条件付債権ではなく、原告有限会社が神戸市長に対し第一の建物等の移転又は除却の承諾をした昭和三六年五月二六日に権利が確定した債権であるといわなければならない。

したがつて、本件補償金は右同日を含む事業年度である第一期の益金に算入するのが相当である。

もつとも、証人中西保、同増田和夫の各証言によると、損失補償金のうち、移転料・取壊し費等移転補償金については、これを支出する日(その支出する日が収用等のあつた日から一年後である場合には一年を経過した日の前日)まで、これを仮勘定とし経理することができるものとして税務上の取扱いがなされていることが認められるが、右取扱いは納税義務者に不利益を課するものではないからこれを是認すべきところ、本件補償金四、六〇〇、〇〇〇円のうち、営業補償金三八八、一九三円を除く移転補償金四、二一一、八〇七円については、これを仮勘定として経理することができることとなる。

したがつて、右仮勘定として計上できる分を除いた営業補償金三八八、一九三円は第一期の益金に計上するのが相当である。

(四)  第一期の前事業年度に対する事業税のうち、第一期の損金に計上されていない金額(未納事業税額)は一三、七七〇円であるが、第一の更正等において、この金額が一六、五九〇円と過大に損金に算入されていたことは当事者間に争いがない。

したがつて、右誤算額二、八二〇円は第一期の益金に加算するのが相当である。

(五)  したがつて、被告主張の加算は相当であり、第一の再更正等には違法はないといわなければならない。

二、第二の更正等について。

被告主張の加算又は減算が相当であるかどうかの点について検討する。

(一)  原告有限会社が第二の土地の買入代金の一部として古谷大吉に対し一、五〇〇、〇〇〇円を支払つたことは当事者間で争いがなく、成立に争いのない乙第一四号証の一、二、証人中西保、同増田和夫の各証言によると、原告有限会社は右金額を建物勘定(岩屋浴場)に計上し、第二期において減価償却を行い減価償却費として一四二、〇〇〇円を損金に計上していることが認められるが、土地については減価償却は認められないから、右減価償却費一四二、〇〇〇円はこれを否認し、益金に加算するのが相当である。

(二)  前記乙第一四号証の一、二、成立に争いのない甲第二号証、乙第一〇第一一号証、原告ら代表者の供述(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第七号証の一ないし七、証人中西保、同増田和夫の各証言により真正に成立したものと認められる乙第一三号証ならびに証人中西保、同増田和夫の各証言によると、第三の土地は昭和二七年七月一日野田が売買により所有権を取得したものであるが、昭和三一年三月一五日頃原告有限会社設立の際、野田から他の事業用財産とともに原告有限会社に(ただし、登記簿上、野田所有名義のまま)、その帳簿価額二二五、〇〇〇円として譲渡され、原告有限会社は昭和三七年三月二〇日第三の土地のうち、五・五四坪(第三の土地から分筆した同番の九、一〇)を四六五、〇〇〇円で奥田周吉に売却したことが認められ(原告ら代表者の供述((第一回))のうち、右認定に副わない部分は採用することができない。)、原告有限会社が右売却代金四六五、〇〇〇円を第二期の益金に計上せず、野田が取得していたことは当事者間に争いがない。

したがつて、右土地売却代金四六五、〇〇〇円は益金に加算するのが相当である。

(三)  第一期において収入すべきことが確定した本件補償金四、六〇〇、〇〇〇円のうち、第一期の益金に加算した営業補償金三八八、一九三円以外の金額四、二一一、八〇七円は、第一の建物等について収用等による譲渡があつたものとみなされた昭和三六年五月二六日から一年を経過した第二期において、交付の目的となつた経費が支出されたことは本件全証拠によるもこれを認めるに足りないので、第二期の益金に計上加算するのが相当である。

(四)  原告株式会社が原告有限会社のため立替納付していた法人税等三一九、一八〇円を益金に加算すべきことならびに事業税五〇、〇九〇円および計上もれ未払金三五一、一二〇円を減算すべきことについては当事者間に争いがない。

(五)  したがつて、被告主張の加算又は減算は相当であり、第二の更正等には違法はないといわなければならない。

三、第三の更正等について

被告(大阪国税局長)主張の加算又は減算が相当であるかどうかの点について検討する。

(一)  前記甲第二号証、第七号証の一ないし七、乙第一〇第一一号証、第一四号証の一、二、成立に争いのない甲第一号証、第六号証の一、二、乙第二号証、第三号証の一、二、第八号証の一ないし三、第一五ないし第一七号証、証人郷司辰男の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一ないし三、証人増田和夫の証言により真正に成立したものと認められる同第四第五号証、証人中西保の証言により真正に成立したものと認められる同第七号証、証人前川晃資、同岩上嘉明の各証言により真正に成立したものと認められる同第九号証、証人岩上嘉明の証言により真正に成立したものと認められる同第一二号証、証人中西保、同増田和夫、同前川晃資(一部)、同岩上嘉明(一部)の各証言ならびに原告ら代表者の供述(第一回の一部)によると、

(1) 野田は従前第一の建物等において浴場を経営していたが、昭和三一年三月一五日頃浴場経営を目的として原告有限会社を設立し浴場経営に必要な事業用財産全部(第一第三の各土地を含む)を原告有限会社に(ただし、登記簿上は、野田所有名義のまま)譲渡し、更に昭和三七年五月一日浴場経営を目的として原告株式会社を設立したところ、原告有限会社は同年六月三〇日限り休業のうえ、同年七月一日原告有限会社との譲渡契約に基づいて事業用財産全部を原告株式会社に譲渡したが、右譲渡契約の書類には、第一第三の各土地が帳簿価額各二二五、〇〇〇円として計上されていた。

(2) 原告株式会社は昭和三七年五月一七日京神建設との間に、請負代金六〇〇万円、同年同月二一日および同年六月二一日に各一、〇〇〇、〇〇〇円支払い、残金四、〇〇〇、〇〇〇円は第一の土地で代物弁済する旨の岩屋浴場新築工事請負契約を締結し、同年五月一九日第一の土地について野田から原因・同日付代物弁済予約、権利者・京神建設とする所有権移転請求権保全仮登記を経由し、同月二三日現金二、〇〇〇、〇〇〇円を支払い、同年一二月一三日第一の土地について野田から原因・同月七日付代物弁済、取得者・京神建設とする所有権移転登記を経由し、なお、前記二、〇〇〇、〇〇〇円は建物勘定に岩屋浴場の取得価額として計上したうえ、その第三期の償却費として五六、七九七円を損金に計上していた。

(3) 京神建設は前記請負契約締結当時、工事原価が一〇、〇〇〇、〇〇〇円余りあつたので、請負金額は一三、八四〇、〇〇〇円と見積り、また、第一の土地は時価八、〇〇〇、〇〇〇円を下らないものと評価していたところ、原告株式会社の意向に沿い第一の土地の価額を四、〇〇〇、〇〇〇円と圧縮・計算して請負代金額を六、〇〇〇、〇〇〇円と決めたが、実際の工事原価が約一二、〇〇〇、〇〇〇円となつたので、第一の土地の帳簿価額四、〇〇〇、〇〇〇円を昭和三八年五、六月頃一一、〇〇〇、〇〇〇円に評価替えし、同年八月三一日第一の土地を約一二、〇〇〇、〇〇〇円で兵庫エバーソフト販売株式会社に売却した。

(4) 被告は第一の土地が登記簿上野田所有名義であつたため、昭和三八年八月二九日頃野田に対し第一の土地の京神建設に対する所有権移転について譲渡所得税の決定をしたところ、同年九月二日野田が第一の土地は昭和三一年に原告有限会社に譲渡済みであることを理由として異議の申立をしたので、調査の結果、同年一〇月三〇日右決定を取消した。

(5) 京神建設は前記建築請負契約に関して原告株式会社に対し未収金三〇〇、〇〇〇円の債権を有していた。

との事実が認められ、証人前川晃資、同岩上嘉明の各証言および原告ら代表者の供述(第一回)のうち、右認定に副わない部分は採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によると、岩屋浴場は原告株式会社の所有に属するものであり、また、岩屋浴場の取得価額は、第一の土地の代物弁済当時の最低価額八、〇〇〇、〇〇〇円に現金で支払われた二、〇〇〇、〇〇〇円および未払金三〇〇、〇〇〇円を加算した一〇、三〇〇、〇〇〇円であると認めるのが相当である。

もつとも、成立に争いのない甲第九第一〇号証によると、野田名義の不動産の昭和三六、三七年度の固定資産税は全部納税済みであることが認められ、また、甲第一一号証には、昭和三八年一月一二日野田と原告株式会社との間に岩屋浴場を家賃一カ月二〇、〇〇〇円で賃貸借する旨の契約が締結された旨の、同第一四ないし第一九号証の各一ないし四、第二〇号証の一ないし三には、原告株式会社が野田に対し原告株式会社の第三期の次々事業年度以降、岩屋浴場の家賃として一カ月金二〇、〇〇〇円宛を支払つた旨の各記載があるけれども、一方、前記乙第八号証の一ないし三、第一四号証の一、二、成立に争いのない同第一八号証の一、二によると、固定資産税六三、五七〇円は原告有限会社の第二期の損金として、昭和三七年度第二期分および第三期分の固定資産税合計四二、五一〇円は原告株式会社の第三期の損金として、固定資産税三五、二四〇円は原告株式会社の第三期の次事業年度の損金として、それぞれ計上されていることならびに原告株式会社の第三期およびその次事業年度の各確定申告書に添付された決算報告書には支払家賃が計上されていないことがそれぞれ認められるとともに、原告ら代表者の供述(第二回)によると、甲第一一号証(家屋賃貸借契約証書)は、被告の原告らに対する調査の際、被告の係官に提示されていないことが明らかであるから、甲第八ないし第一一号証、第一四ないし第一九号証の各一ないし四、第二〇号証の一ないし三は前記認定の妨げとはならない。

ところで、前記乙第七号証、第八号証の一ないし三によると、原告株式会社は岩屋浴場の取得価額として二、〇〇〇、〇〇〇円を、その償却費として五六、七九七円を損金にそれぞれ計上したことが認められるが、法人税法施行細則第六条(昭和四〇年大蔵省令第一二号による改正前)の規定によると、法人が固定資産の取得価額の全部又は一部を損金に算入したときは、右損金算入額相当の金額の償却をしたものとみなす旨定められているので、岩屋浴場の取得価額とすべき金額一〇、三〇〇、〇〇〇円のうち、原告株式会社がその取得価額として計上した二、〇〇〇、〇〇〇円を超える金額八、三〇〇、〇〇〇円については償却をしたものとみなされ、結局、右八、三〇〇、〇〇〇円と原告株式会社が損金に計上した償却費五六、七九七円との合計額八、三五六、七九七円が原告株式会社のした償却額であるところ、前記乙第七号証によると、法令の規定に基づいて算出した岩屋浴場の第三期の償却範囲額は五一四、九九九円であることが明らかであるから、右償却超過額七、八四一、七九八円を益金に加算するのが相当である。

(二)  前記乙第七号証および証人中西保の証言によると、原告株式会社はその所有にかかる第三の土地上の建物について、その第三期の償却範囲額が八三、四〇三円であるのに、誤算により、第三期の償却費として一〇〇、〇八四円を損金に計上していることが認められるから、右償却超過額一六、六八一円を益金に加算するのが相当である。

(三)  第一の土地は、前述のとおり、昭和三七年七月一日原告有限会社に帳簿価額二二五、〇〇〇円で譲渡されたものであるが、第一の土地は、前述のとおり、昭和三七年一二月七日岩屋浴場の建築請負代金の一部の代物弁済として京神建設に譲渡され、同月一三日その旨の所有権移転登記が経由されたものであるから、右金額を減算するのが相当である。

(四)  京神建設は、前述のとおり、岩屋浴場の建築請負契約に関して原告株式会社に対し未収金三〇万円の債権を有していたものであるが、証人中西保、同増田和夫の各証言によると、右未払金三〇〇、〇〇〇円は損金に計上されていないことが認められるから、右金額を減算するのが相当である。

(五)  第一の建物等が第三期中に除却されたことは当事者間に争いがなく、前記甲第六号証の一、二、乙第七号証、第八号証の一ないし三、第一四号証の一、二、成立に争いのない甲第五号証の一、二ならびに証人中西保の証言によると、第一の建物等の帳簿価額は二、七五八、五一七円であることが認められるから、右金額を減算するのが相当である。

(六)  したがつて、被告主張の加算又は減算は相当であり、第三の更正等には違法はないといわなければならない。

第三  以上の次第で、第一の再更正等および第二第三の各更正等はいずれも相当であつて、他にこれを取消すべき瑕疵も認められないから、その取消を求める原告らの本訴請求はいずれも理由がないものとしてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲西二郎 裁判官 神保修蔵 裁判官 小野貞夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例